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東京地方裁判所 昭和61年(行ウ)67号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  中労委昭和五九年(不再)第六二号、第六三号及び第六四号事件について、被告が昭和六一年三月一九日付けでした命令中、主文第1項ないし第3項及び同第4項のうち原告の再審査申立てを棄却した部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一  原告の主張

1  救済命令の成立

茨城県地方労働委員会は、補助参加人ネッスル日本労働組合(本部執行委員長斉藤勝一。以下「参加人組合」という。)及び同ネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部(支部執行委員長富田真一。以下「参加人支部」という。)を申立人、原告及びネッスル株式会社霞ヶ浦工場工場長平野憲一郎こと原告を被申立人とする茨労委昭和五八年(不)第二号及び第三号事件につき、昭和五九年一一月二二日付けで別紙(一)のとおり救済命令(以下「初審命令」という。)を発した。

原告(中労委昭和五九年(不再)第六二号事件)、ネッスル株式会社霞ヶ浦工場工場長平野憲一郎こと原告(同第六三号事件)、参加人組合及び参加人支部(同第六四号事件)は、右命令を不服として被告に対しそれぞれ再審査申立てをしたところ、被告は、同六一年三月一九日付けをもって、別紙(二)のとおり、原告の再審査申立てを棄却し、参加人組合及び参加人支部の再審査申立ての一部を認容して救済内容を変更する旨の命令(以下「本件命令」という。)を発し、この命令書の写しは同年四月二一日、原告に交付された。

2  しかしながら、本件命令には、以下のとおりの違法がある。

(一) 参加人組合及び参加人支部の不存在について

原告の雇用する従業員によって組織される労働組合は、訴外ネッスル日本労働組合(現在の本部執行委員長四宮義臣。以下「訴外組合」という。)が唯一のものであり、また、原告の霞ヶ浦工場に勤務する従業員によって組織される支部は、訴外組合の下部組織としての訴外ネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部(現在の支部執行委員長遠藤芳行。以下「訴外支部」という。)が唯一のものであって、参加人組合及び参加人支部は存在しない。すなわち、訴外組合は、昭和四〇年一一月に結成された単位労働組合で結成以来原告の従業員による唯一の労働組合として存在してきたものであり、また、訴外支部は、同五三年三月に訴外組合の下部組織として設けられて以来、原告の霞ヶ浦工場に勤務する従業員が組織する唯一の支部として存続してきているものであるところ、訴外組合と原告との間には、同四六年五月以来、労働協約が締結され、ユニオン・ショップ制がとられてきているので、原告の雇用する従業員は、すべて訴外組合の組合員であった。このような労使関係と訴外組合の組織状況において、訴外組合とならんで別個の労働組合が存在し得るには、団結意思を有する一部の組合員が団結体を結成し、独自の規約や執行機関を有することだけでは足りず、右組合員らが組合規約に則り訴外組合あるいは訴外支部から脱退あるいは除名されて新たに労働組合を結成するしかあり得ないところ、本件において参加人組合及び参加人支部に属すると称する組合員らは反主流派を形成して分派活動を行っているものの、現在に至るまで訴外組合及び訴外支部から組合規約に定める手続により脱退したり除名されたことはなく、その組合員として取り扱われてきているのであるから、いまだ訴外組合及び訴外支部から離脱しておらず、その組合員であることは明らかである。したがって、本件において訴外組合及び訴外支部と別個の労働組合が成立する余地は全くないのであって、被告は、参加人組合及び参加人支部が労働組合として存在しないにもかかわらず、これが存在するとの誤った前提で本件命令を発したものである。

(二) 団体交渉拒否について

被告は、参加人組合が同五八年三月二〇日の時点において、参加人支部が同年四月一〇日の時点において、それぞれ訴外組合及び訴外支部とは別個の労働組合として存在するに至り、原告はこれを十分に認識していたと推認されるから、原告には団体交渉応諾義務があるというが、本件において訴外組合及び訴外支部と別個の労働組合が成立する余地が全くないことは前記(一)のとおりであるうえ、参加人組合及び訴外組合は、いずれも自らが従前のネッスル日本労働組合と同一性を有すると主張し、組合規約による脱退ないし除名の手続をとった者はおらず、訴外組合は参加人組合及び参加人支部に属すると称する従業員らも依然訴外組合の組合員であると原告に対し再三にわたり申し入れ、右従業員らも自らが脱退等の手続をとったことはないと主張しているのであるから、このような状況下においては原告としては二つの労働組合が併存するなどという認識を持ち得ないことは明らかである。そもそも使用者の団体交渉応諾義務は労働組合法の定めるところであり、同義務は罰則をもって担保されているのであるから、その相手方であり権利主体となる労働組合の成立及び存在は明確でなければならないところ、被告は本件命令において二つの労働組合が併存することについてなんら事実上、法律上の根拠を明らかにすることなく原告に団体交渉を命じたのものであって不当である。

(三) チェックオフについて

原告は、訴外組合との間で、同四六年五月以来現在に至るまで、労働協約を締結し、同四七年以来、訴外組合の組合費について、チェックオフ協定を締結してきており、同協定は現在に至るまで効力を有しているから、原告は、訴外組合に対し、その組合員につき組合費をチェックオフする義務を負担しており、他方、参加人組合及び参加人支部に属すると称する従業員らは、いずれも入社後間もなく訴外組合の組合員となり、その後現在まで訴外組合を脱退したことも、除名されたこともなく、いまだ訴外組合の組合員であるから、訴外組合に対し組合費納入義務を負担していることは明白である。参加人組合及び参加人支部が訴外組合及び訴外支部とは別個の労働組合として存在する余地がないことは、(一)記載のとおりであるが、仮に参加人組合及び参加人支部が訴外組合及び訴外支部とは別個の労働組合として存在するとしても、参加人組合及び参加人支部に属すると称する従業員らが、訴外組合に対し組合費納入義務を免れるためには、原告と訴外組合の間のチェックオフ協定そのものが失効するか、何らかの理由により右チェックオフ協定の効力が同人らに及ばなくなる以外に考えられないところ、被告は、これらのことについて何ら具体的な認定、判断をすることなく、ただ参加人組合及び参加人支部が別個の労働組合として存在することのみをもって、原告のチェックオフを不当労働行為と判断しているのであって、右判断には著しい論理の飛躍がある。また、右のチェックオフは、訴外組合のための組合費について行われたものであって参加人組合及び参加人支部の組合費について行われたものではないのであるから、参加人組合及び参加人支部の財政基盤を脅かすものでも、その弱体化を意図するものでもなく、このことは、参加人組合及び参加人支部が自ら別組合として自らの組合費を独自に徴収していることからも明らかである。さらに、仮に右チェックオフが不当労働行為に該当すると仮定しても、原告の行為は従業員の給与から訴外組合の組合費を控除したことであるから、その救済としては、これを当該従業員個人に支払うことを命ずることで必要かつ十分であって、これを参加人支部に支払うべき法律上の根拠は全くなく、被告がチェックオフした組合費相当額を参加人支部に支払うべきであるとした本件命令は、この点において、著しく裁量権を濫用したものである。

(四) したがって、参加人組合及び参加人支部が訴外組合とは別個の労働組合であることを前提として、原告に団体交渉、訴外組合の組合費のチェックオフの中止及びチェックオフした組合費相当額の支払いを命じた本件命令は、違法である。

3  本件命令書の理由中「第1 当委員会の認定した事実」により引用される初審命令書の理由中「第1 認定した事実」記載の被告の認定事実(ただし、本件命令書において変更、追加されている個所については、変更、追加後の認定事実)に対する認否は、以下のとおりである。

(一) 「1 当事者」について

(1) (1)の事実のうち、原告が肩書地に本社を置き、インスタントコーヒー等の飲食料品を製造販売する株式会社であり、その従業員数が昭和六一年一〇月末日現在約二三〇〇名であることは認め、その余の事実は否認する。原告は、五販売事務所、一六営業所、三四出張所、四工場をそれぞれ有している。

(2) (2)の事実のうち、工場数及び従業員数は否認し、その余の事実は認める。霞ヶ浦工場の従業員数は、昭和六一年一〇月末日現在約二三〇名である。

(3) (3)の事実は否認する。原告の従業員が組織する労働組合は、単一体としての訴外組合が唯一のものであって、それ以外には存在しない。

(4) (4)の事実のうち、茨城県地方労働委員会が富田真一を支部執行委員長と称するネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部なるものについて労働組合法に適合する旨の証明をしたことは認め、その余の事実は否認する。富田真一を支部執行委員長と称するネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部なるものは実体がない。

(5) (5)の事実のうち、原告に訴外組合があることは認め、その余の事実は否認する。原告の従業員が組織する労働組合は訴外組合及び訴外支部がそれぞれ唯一のものであり、それ以外には原告の従業員で組織する労働組合は存在しないし、かつて存在したこともない。

(二) 「2 被申立人会社に同一名称の二つの労働組合が併存するに至った経緯」について

(1) (1)及び(2)の各事実は認める。

(2) (3)の事実のうち、前記各選挙に会社が露骨に介入しており、選挙の公正が損なわれる状況にあるとして、との部分は否認し、その余の事実は認める。

(3) (4)ないし(6)の各事実は認める。

(4) (7)の事実のうち、同五七年一一月六日、七日、第一七回定期全国大会が開催され、七七名の代議員のうち、三五名が、いまだ信任投票が行われていないこと、会計監査が終了していないこと等を理由に欠席したため、同大会は、出席代議員が、組合規約に定める定足数(議決権を持つ構成員すなわち大会代議員数の三分の二)に達しなかったことは認め、その余の事実は否認する。前記代議員三五名が、同大会に出席しなかった理由は、被告認定の他に、一部代議員には、大会の場所、時間等を連絡しなかったということもある。また、組合規約上、一般投票によって当選した代議員の解任の手続規定はなく、あえてその議決権を剥奪せんとすれば、組合員としての権利の停止、除名等の制裁に関する組合規約第六八条ないし七〇条によるほかないところ、同大会は、定足数に達していなかったのであるから、何ら有効な決議等をなしえず不成立のまま終了したのである。なお、三浦一昭らに対する組合員権利停止処分の前提となる審査委員会の答申も、審査委員会規定に定める定足数に達しない審査委員会においてされた無効なものである。

(5) (8)の事実は否認する。前記のとおり、第一七回定期全国大会は定足数不足であって、この大会においてされた決議なるものはすべて無効であり、したがって、同年一一月一三日に続開大会を開催する旨の決議も無効であり、その続開大会も定足数不足であったから、同大会においてされた三浦一昭らに対する制裁処分や、斉藤勝一らを本部役員に選出した行為等も、当然に無効である。

(6) (9)の事実は認める。

(7) (10)の事実は否認する。前記のとおり、斉藤勝一らを本部役員に選出した行為も、同人らによって開催された本部執行委員会なるものも、全く無効である。「確認書」の提出という決定なるものも、何ら権限のない者の行ったものであり、また、組合規約にも全く根拠のないものである。

(8) (11)の事実のうち、訴外組合の大阪支部の第一〇回定期支部大会が同五七年一二月一五日に、島田支部の第一〇回定期支部大会が同月一九日にそれぞれ開催されたことは認め、その余の事実は否認する。

(9) (12) の事実は否認する。前記のとおり、斉藤勝一は、訴外組合の本部執行委員長ではなく、何ら大会を招集する権限を有しない者であるから、その招集なるものは無効であり、したがって、その大会なるものは、一部組合員による単なる集会にしか過ぎない。また、組合規約第二三条には、全国大会は、代議員及び本部役員で構成すると定められており全組合員を構成員とする全国大会なるものは、そもそも組合規約に全く根拠のない不当なものである。さらに、訴外組合における脱退の手続は組合規約第七条の定めるところであり、確認書を提出しないものは脱退したものとみなすことは組合規約に基づかないものであって、およそ効力の生ずる余地のないものである。

(10) (13)の事実は否認する。被告の認定する大会なるものは、前記のとおり、一部組合員による単なる集会にしか過ぎない。

(11) (14)の事実は認める。

(12) (15)の事実のうち、斉藤勝一らが第二〇回全国大会なるものを同五八年八月二七、二八日に開催したことは否認し、その余の事実は認める。

(13) (16)の事実は認める。

(14) (17)の事実は否認する。

(三) 「3 被申立人工場に同一名称の二つの支部が併存するに至った経緯」について

(1) (1)の事実は認める。

(2) (2)の事実は否認する。前記のとおり第一七回全国大会における決議なるもの及び続開大会における決議、決定等はすべて無効であるから、溝口栄蔵ら四名に対する権利停止処分も当然無効である。また、右溝口らの解任通告をした斉藤勝一は前記のとおり何ら権限のない一組合員にすぎないものであり、組合規約によれば、支部役員の解任は、支部執行委員会の申請に基づき支部審査委員会の決議を経て支部大会の決議によると定められているところ(第六九条、第七〇条)、訴外支部においてかかる手続、決議がされたことは全くなく、いずれにしても溝口支部委員長が解任されたことはない。さらに、斉藤勝一らの主張する本部執行委員会は、前記のとおり組合規約に基づき正当に選出された本部執行委員によるものではないから、その再建委員会に関する決定なるものは無効であり、かつ再建委員会なるものは、組合規約に全く根拠のない無効なものである。

(3) (3)ないし(5)の事実は否認する。

(4) (6)の事実は認める。

(5) (7)の事実は否認する。

(6) (8)及び(9)の事実は認める。

(7) (10)の事実は否認する。

(四) 「4 団体交渉拒否について」について

(1) (1)の事実は否認する。

(2) (2)の事実のうち、霞ヶ浦工場が、同五八年四月一五日、被告認定の「返戻書」とともに、前記四月一三日付け文書二通を富田真一に返送したことは認め、その余の事実は否認する。

(3) (3)の事実のうち、原告と訴外組合の間に締結されている労働協約の第一五条に、被告認定のとおりの定めがされていることは認め、その余の事実は否認する。

(五) 「5 チェックオフについて」について

(1) (1)の事実は認める。

(2) (2)の事実は否認する。

(3) (3)の事実のうち、原告が訴外組合から「回答および申入れ」があったことを参加人組合に通知したとの点は否認し、その余の事実は認める。

(4) (4)の事実のうち、参加人支部なるものが霞ヶ浦工場に申し入れたこと及び原告が参加人組合に照会したことは否認し、その余の事実は認める。

(5) (5)の事実は認める。

(6) (6)の事実については、原告が訴外組合の霞ヶ浦支部組合員について、組合費のチェックオフを行っていることは認め、その余の事実は否認する。

4  よって、原告は、本件命令の取消しを求める。

二  原告の主張に対する認否及び被告の主張

1  原告の主張1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

3  本件命令は、本件命令書の理由欄記載のとおりの事実に基づいてされたもので、その事実認定及び判断に違法はない。

原告の主張に対する反論は、次のとおりである。

(一) 参加人組合及び参加人支部の存在について

労働者が労働組合を結成し、又は労働組合から脱退する自由は、日本国憲法二八条の保障するところであり、労働組合は、団結意思を有する労働者が団結体を組織し、独自の規約、執行機関を有することによって成立するのであって、その間に当該組合員らがそれまで所属していた労働組合の組合規約所定の脱退等の手続を履践したかどうかは単なる組合内部の問題にすぎず、当該労働組合の成否とは直接の関係はなく、また、会社と従前の組合との間にユニオン・ショップ制を含む労働協約があったか否かによって直接左右されるものではない。参加人組合が同五八年三月二〇日以降、参加人支部が同年四月一〇日以降、それぞれ訴外組合及び訴外支部とは別個に存在するに至ったことは、いずれも本件命令書記載のとおりであり、参加人組合及び訴外組合は、いずれも自らが従前のネッスル日本労働組合の承継者であると主張し、双方とも従前のネッスル日本労働組合の規約による脱退ないし除名の手続をとっていないが、参加人組合及び訴外組合がそれぞれ独自の規約、執行機関を有する別個の労働組合として存在し、別個の行動をとるにいたったことは動かせない客観的事実である。

(二) 団体交渉応諾義務について

(一)記載のとおり、参加人組合及び参加人支部は、訴外組合及び訴外支部とそれぞれ別個の労働組合として存在するに至ったのであるから、参加人組合及び参加人支部は、それぞれ労働組合法上の固有の権利を有するのであって、原告がこれらの労働組合からの団体交渉の申入れに応ずるべきは当然である。参加人組合及び訴外組合がそれぞれ別個の労働組合として客観的に存在するに至った以上、原告の主観的判断によって、訴外組合のみを唯一の労働組合と認知し、参加人組合の有する団体交渉権等の固有の権利を否認することは、労働組合法上許されない。

(三) チェックオフについて

(1) 参加人組合及び参加人支部が、訴外組合及び訴外支部とそれぞれ別個の労働組合として存在するに至ったことは(一)記載のとおりであり、原告は右事実を知り得たものである。したがって、原告と従前の労働組合との間のチェックオフ協定の効力が直ちに参加人組合にも及ぶものということはできず、原告は、チェックオフの取扱いにつき両組合に対し中立保持義務があり、かつ、参加人支部及び参加人支部所属組合員から再三にわたりチェックオフの取止めを求められたにもかかわらず、これを無視してチェックオフを継続し、しかも、これを供託する等の方法を講ずることなく、あえて訴外組合に交付したのであるから、このような会社の措置は不当労働行為に該当する。

(2) 本件命令が、原告に対し、チェックオフした組合費相当額等を参加人支部所属組合員個人にではなく、参加人支部に一括して交付するよう命じたのは、(1)に述べた会社の措置が、参加人支部所属組合員らに対する不利益取扱いであると同時に、組合費をその財政基盤とする参加人組合及び参加人支部を弱体化し、訴外組合に経理的援助を与えることを意図した不当労働行為であるとして、その救済方法として労働委員会の裁量によりされたものである。また、本件命令が、原告に対し、チェックオフした組合費相当額に年五分の割合による金員を付加して参加人支部に支払うことを命じたのは、会社が、いまだに組合は一つであるとして、参加人組合及び参加人支部の存在をかたくなに否定し、参加人支部及び参加人支部所属組合員から再三にわたりチェックオフの取止めを求められたにもかかわらず、これらの意思を無視してチェックオフを継続してこれを訴外支部に引き渡し、参加人支部所属の組合員に改めて組合費の支出を余儀なくさせて、参加人組合及び参加人支部の団結権侵害を継続したことが認められるためである。被告が右の如き団結権侵害の現時点における救済として、過去にチェックオフした組合費相当額に年五分の割合による金員を付加して支払うよう命ずることは、必要かつ不可欠な救済であって、不当労働行為救済制度の趣旨に合致するものであり、かつ、労働委員会の裁量の範囲内にあるというべきである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  原告の主張1(救済命令の成立)の事実は当事者間に争いがない。

二  本件の事実関係

1  当事者等

原告が、兵庫県神戸市中央区に本社を置き、インスタントコーヒー等の飲食料品を製造する株式会社で、その従業員数が約二三〇〇名であること、ネッスル株式会社霞ヶ浦工場(以下「霞ヶ浦工場」という。)が、原告の工場の一つで、茨城県稲敷郡桜川村において「ミロ」、「ブライト」等の乳製品を製造していること、原告の従業員らにおいて、昭和四〇年一一月、ネッスル日本労働組合(以下「旧組合」という。)が結成され、同組合は、同四七年全日本食品労働組合連合会に加盟し、原告との間で、ユニオン・ショップ協定、チェックオフ協定等労働関係の広範な事項に関し労働協約を締結し、同五七年八月当時、全国各地に八支部、組合員数約二一〇〇名を有していたことは、当事者間に争いがない。

2  参加人組合と訴外組合が対立するに至った経緯

〈証拠〉を総合すれば、次の事実を認めることができ、この事実を左右するに足りる証拠はない。

(一)  旧組合本部執行委員会(当時の本部執行委員長川上能弘)は、昭和五六年八月二〇日、原告が第一六回定期全国大会代議員選挙に介入し、原告の意を受けた者が大会代議員に多数選出されたことが明確になったとして、同年八月二九、三〇日に予定されていた同大会の期日を同年九月一九、二〇日に延期するとともに、同組合本部役員の選出方法につき大会代議員による間接選挙によるとしていた組合規約及び選挙規定を、代議員による間接選挙のほか全組合員による直接投票である一般投票によることができると改正することを決定し、右組合規約等の改正案は、同月二七日に実施された一般投票により組合員多数の承認をえて採択され、同年の本部役員は一般投票により選出された。

(二)  旧組合は、同五七年七月二〇日、第一七回定期全国大会(以下「第一七回大会」という。)を同年八月二八日、二九日の両日に開催すること、同大会代議員選挙の投票日を同月一一日とすること及び同組合本部役員選挙を前記一般投票により行うことをそれぞれ公示し、次いで、同年七月二九日、右本部役員選挙の投票日を同年八月一一日とすることを公示するとともに、二七名の本部役員候補者名簿を発表した。右本部役員選挙には、本部執行委員長に、当時現職の川上能弘が会社による組合への介入等を阻止するとの立場から、当時姫路支部執行委員長兼本部執行委員であった三浦一昭(以下「三浦」という。)が組合本部の方針を批判する立場からそれぞれ立候補し、その他の役員についても、双方の立場からの立候補者があった。

(三)  ところが、旧組合本部執行委員会は、同年八月六日、原告が第一六回大会のときと同様管理職等を使って右(二)の各選挙に露骨に干渉、介入を行っており選挙の公正が損なわれる状況にあるとして、選挙介入、組織運営への介入に関する詳細な調査を行い対策を講ずるため前記公示にかかる本部役員選挙を中止して後日別途公示に基づき同選挙を実施すること、第一七回大会及び同大会代議員選挙を延期することを決定し、その旨を公示した。

(四)  本部執行委員会の右決定に反対する旧組合組合員は、同措置が一部の本部役員による独裁であり、組合を私物化するものであるとして、同年八月二五日から、三浦らを代表として、本部役員の弾劾及び退陣、既に投票実施中の選挙の完全実施並びに全国大会の早期開催を求める署名運動を各支部で展開し、同年九月二日、組合員数の約八割に相当する者の署名とともに、「本部役員の弾劾、投票の完全実施並びに定期又は臨時全国大会開催要求書」を旧組合本部執行委員会に提出し、さらに、三浦らは、同月七日、大会の開催等を求める仮処分を神戸地方裁判所(以下「神戸地裁」という。)に申請した。

(五)  これに対し、旧組合本部執行委員会は、同月二四日、本部役員選挙を一般投票の方法により同年一〇月三〇日に、同大会代議員選挙を同月一八日にそれぞれ実施すること、第一七回大会を同年一一月六日、七日の両日に開催することを決定し、これを公示する一方、三浦らを前記署名運動に関与し組織を混乱させたとして組合員権利停止等の制裁処分に付すべきであるとし、同年九月三〇日、この旨を本部審査委員会に申請した。

(六)  右各公示に基づき実施された大会代議員選挙の結果、当時の組合本部体制を支持する者四二名及びこれに反対する者三五名が大会代議員として選出され、次いで実施された本部役員選挙では、本部執行委員長に三浦、同書記長に田中康紀、同副書記長に浜田一男、同執行委員に伊東忠夫の四名が当選し、獲得票が過半数に達しない上位得票者一〇名が、選挙規定に基づき信任投票を要する者とされた。

(七)  他方、右制裁処分の申請を受けた本部審査委員会は、同年一〇月三一日、本部執行委員長川上能弘に対し、三浦を二年間の組合員権利停止処分に付すること等を内容とする答申をしたが、右委員会の審査は、審査委員会規定に定める決議のための定足数を満たしていなかった。

(八)  第一七回大会は、同年一一月六、七日に開催されたが、右選出にかかる大会代議員七七名のうち当時の組合本部体制に反対する三五名の代議員が、いまだ右本部役員の信任投票が実施されていないこと、会計監査が終了していないこと等を理由に同大会を欠席したため、大会出席代議員が組合規約に定める定足数(議決権を持つ構成員すなわち大会代議員数の三分の二)に達しないという事態が生じた。

(九)  ところが、旧組合本部執行委員会は、欠席した代議員三五名は組織的、意図的に大会をボイコットしたものであり、組合規約上の代議員の義務を果たさず代議員の権利を放棄したものであるから議決権を有しないとして、出席代議員のみで同大会の成立を認めた。同大会は、前記の本部審査委員会の答申に基づき、三浦ら一三名を組合員権利停止処分に、八名を戒告処分に付し、三浦らの行動を支援するインフォーマル組織の解体をめざした「団結強化のための方針」を決議するとともに、組合役員、代議員になるためには同方針を遵守し、実践すること及びインフォーマル組織に加わっていないことを全組合員に書面で誓約しなければならないとする付帯決議をした。そして、前記(六)の本部役員選挙結果の取扱いに関し、組合員権利停止処分に付された三浦を除く三名の当選者については、同月一二日までに右付帯決議に基づく誓約書の提出を条件に役員就任を認め、その他の役員については、一般投票を中止し、改めて候補者を募り、同月一三日に開催する続開大会で、議決権を有する代議員の投票により選出することを決定した。

本部執行委員会は、右制裁決議後直ちに、原告に対し、三浦ら本部役員三名の解任を通告した。

(一〇)  他方、三浦は、同年一一月八日、原告に対し、前記(六)の本部役員選挙の結果、三浦が本部執行委員長に、田中康紀が書記長に、浜田一男が副書記長に、伊東忠夫が執行委員に、それぞれ当選、選出されたこと、その余の本部役員中、本部副執行委員長及び執行委員(九名)については、選挙の結果、上位者につき信任投票を行い選出する予定であること等を通知した(以下、三浦を執行委員長とする本部執行委員会を「三浦グループ」という。)。さらに、三浦外一名は、前記の組合員権利停止処分の効力停止を求める仮処分を神戸地裁に申請し、同地裁は、同月一三日、右処分の効力を停止する旨の決定をした。

(一一)  同月一三日の第一七回大会続開大会にも、組合本部体制に反対の前記三五名の代議員は前同様欠席したが、その余の代議員(当日は、二、三名が欠席)が出席して同大会が開催され、同大会において、三浦らに対する前記の組合員権利停止処分が仮処分決定で効力を停止されたのは定足数を欠いた本部審査委員会の答申に基づいたからであるとして、前記の制裁決議を暫定的に取り消し、定足数を満たした同委員会の答申を得て、改めて三浦らに対し先と同一の処分に付することを決議し、次いで、出席の代議員らにより本部役員選挙を実施し、本部執行委員長に斉藤勝一(以下「斉藤」という。)を選出したほか、一〇名の本部役員を選出した。前記のとおりその就任に条件を付された本部役員三名は、期日までに誓約書を提出しなかったため当該役職に就くことができないとされ、同役職は欠員となった。斉藤は、同月一六日、原告に対し、自らの本部執行委員長就任ほか本部役員の変更を通知した(以下、斉藤を執行委員長とする本部執行委員会を「斉藤グループ」という。)。

(一二)  これに対し、三浦ら一三名は、〈1〉同月一七日に右組合員権利停止処分の効力停止を、〈2〉同月二二日に田中康紀、浜田一男及び伊東忠夫につき本部役員としての仮の地位を定めることを、〈3〉同年一二月二七日に三浦が本部執行委員長としての職務を執行することを妨害してはならないこと等を、それぞれ求める仮処分を神戸地裁に申請し、同地裁は、〈1〉の申請を同年一二月二日に、〈3〉の申請を一部を除き同五八年二月二五日に、それぞれ認容する決定をし、〈2〉の申請については、田中康紀ら三名が本部役員に選任されたことは明らかであるから同人らを各役職に仮指定する理由がないとして、これを却下した。

(一三)  斉藤グループは、インフォーマル組織が組合支部を乗っ取るため姫路、大阪、神戸、東京、島田の各支部で前記「団結強化のための方針」に反する支部大会や代議員選挙、役員選挙を企て、強行しているとして、同五七年一二月五日、旧組合の全組合員に対し、右大会や選挙に参加することを禁じるとともに、右組合員らに、これらに参加しない旨の確認書の提出を求め、斉藤グループを支持する組合員らは、同年一二月から翌年一月にかけて、各支部において三浦グループを支持する組合員とは別個に支部大会を開催した。さらに、斉藤グループは、同五七年一二月二九日、後記のとおり、三浦グループを支持する組合員らによって同月一五日に大阪支部で、同月一九日に島田支部でそれぞれ支部大会が開催されたことについて、これをインフォーマル組織による組合分裂行為の強行であると規定し、このような動きが他支部に拡大していく状況のもとでは、早急に全国的に組合員を確定し、組合員により全国大会を開催して労働組合の組織を確定し、かつ、そのもとでの活動方針を確立することが不可欠であるとして、右確認書を同五八年一月九日までに提出した者を「ネッスル日本労働組合」の組合員とすることとし、これにより確定した組合員らにより、同月一五日に第一八回臨時全国大会を開催することを決定した。

(一四)  これに対し、三浦グループを支持する組合員らは、右斉藤グループの支部大会とは別個に、同五七年一二月一五日に大阪支部大会、同月一九日に島田支部大会、同五八年一月一四日に姫路支部大会、同月一五日に神戸支部大会、同月一六日に東京及び広田の各支部大会をそれぞれ開催し、三浦新体制の確立及び臨時全国大会の早期開催を求める決議等を行った。

(一五)  斉藤グループは、同年一月一五日第一八回臨時全国大会を開催し、前記確認書を提出した者が「ネッスル日本労働組合」の組合員であり、これを提出しなかった者は、同組合を集団的に脱退したものであるとして、その所属組合員を確定した。次いで、斉藤グループは、同年三月二〇日大会代議員定数二七名(同年一月三一日現在の組合員数二六九名を基礎に算出)中二六名の代議員が出席して第一九回臨時全国大会を開催し、同大会で、大会代議員による本部役員選挙を実施して斉藤ら本部役員を再選するとともに、組合規約の改正を行い、同一名称を名乗る三浦グループと区別するため、「ネッスル第一組合」との略称を加えた。さらに、斉藤グループは、同年八月二七、二八日第二〇回定期全国大会を開催した。この組織が現在参加人組合を名乗っているものである。

(一六)  他方、三浦グループは、前記(六)の本部役員選挙の結果、本部副執行委員長及び執行委員九名につき、上位得票者の信任投票が行われていないとして、同年三月一二日本部執行委員長三浦の名で、本部選挙管理委員会に対し、右信任投票の実施を要請したところ、これを受けて、本部選挙管理委員長小山尚を除く選挙管理委員は、右信任投票を、同月一八日から二四日までの間に行う旨を公示し、これに基づき実施された信任投票の結果、三浦グループを支持する九名が信任され、斉藤グループを支持する一名が不信任となり落選した。三浦は、同月二五日、ネッスル日本労働組合本部執行委員長名で、原告に対し右九名がそれぞれ本部役員に信任、選出されたことを通告した。

次いで、三浦グループは、同年六月四、五日第一回臨時全国大会を開催し、ネッスル日本労働組合の昭和五七年度本部役員選挙において三浦ら現本部役員が選任され就任したこと、第一七回大会における決議、確認はすべて無効であること及び斉藤と共にする一部組合員の行動、行為は、規約に反する分派行動であり、組合統制違反行為であること等を確認した。さらに、同年八月二七、二八日、第一八回定期全国大会を開催するに至った。これが現在訴外組合を名乗る組織となっている。

3  参加人支部と訴外支部が対立するに至った経緯

〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  霞ヶ浦工場の従業員らにより、昭和五三年三月に結成されたネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部(以下「旧支部」という。)は、旧組合の下部組織であり、同五七年当時、溝口栄蔵(以下「溝口」という。)が支部執行委員長の職にあり、組合員数は約一八〇名であった。

(二)  旧組合本部執行委員会は、同五七年八月三一日、溝口ら旧支部役員四名につき、組合本部執行委員会を非難、中傷する言動を行う等、重大な組織原則逸脱行為があるとして、本部審査委員会に制裁の申請をし、同委員会は、同年一〇月三一日本部執行委員長川上能弘に対し、溝口を一年間の組合員権利停止処分に付する等の内容の答申をした。右答申は、前記2(七)の答申と同時にされたものであり、前述のとおり、同審査委員会は決議のための定足数を欠いていた。これを受けて、同年一一月六日開催された第一七回大会において、溝口ら旧支部役員四名を組合員権利停止処分に付するとの決議が行われ、前記2(一一)のとおり同月一三日の続開大会で本部執行委員長に選出された斉藤は、同月一六日、ネッスル日本労働組合本部執行委員長名で、霞ヶ浦工場工場長平野憲一郎(以下、単に「霞ヶ浦工場長」という。)に対し、右四名の支部役員の解任を通知した。

(三)  斉藤グループは、同年一一月一九日霞ヶ浦支部再建委員会(以下「再建委」という。)の設置を決定して代表に井坂正道を任命し、さらに、同月二二日、溝口ら四名が支部執行部に居座り組合の私物化を続けているとして、旧支部組合員に対し、同支部再建に向けた今後の取組みを議題とする支部全体集会を同月二八日に開催することを公示し、右全体集会は、同月二八日同支部組合員四二名の参加のもとに開催され、再建委の役員人事等が決定された。再建委は、前記2(一三)の斉藤グループの決定を受けて、旧支部組合員らに確認書の提出を促すとともに、同五八年一月五日新執行部体制を確立し、活動方針を決定するため、参加資格を確認書提出者とする第六回霞ヶ浦支部定期大会(霞ヶ浦支部再建大会)を、同月九日に開催することを公示した。

(四)  右大会は、同月九日、確認書提出者中六四名が出席して開催され、支部執行委員長富田真一(以下「富田」という。)ほか一七名の新役員を選出し、運動方針の採択、所属組合員が八三名であることの確認等をした。富田は、ネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部執行委員長名で、霞ヶ浦工場長に対し、同月一九日富田ら一七名の支部役員就任を通告し、さらに、同年二月一日「去る一月三一日、霞ヶ浦支部元執行委員長溝口氏と交渉を行ない、ネッスル日本労働組合の名のもとで共に支部運営を行なう旨を申し入れたのでありますが、溝口氏は、あくまで三浦氏を代表とする組織への加盟を望んでおり、且つ、それに賛同する人達と共に、我々ネッスル日本労働組合とは別途に支部運営を行なうとのことでありました。ここに、霞ヶ浦工場におきまして、ネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部とは別に、溝口氏を代表とする組織が結成され、二つの組織によって、今後の組合運営が行なわれます事をお伝え致します。」との通告を行った。これに対し、霞ヶ浦工場長は、同月九日富田宛に、溝口から上記両通告はいずれもネッスル日本労働組合の正式文書ではないとの回答があったこと及び富田らは新たに第二組合でも結成したのかとの「回答並びに照会書」を送付した。

(五)  富田を執行委員長とする支部執行委員会は、同年四月一〇日、組合員数五八名中四三名の出席により、第七回霞ヶ浦支部臨時大会を開催し、同大会において、支部規約の制定、富田の支部執行委員長への再選等支部役員の選出、所属組合員が五八名であることの確認等が行われたので、富田は、同月一三日支部執行委員長名で、霞ヶ浦工場長に対し、右制定に係る組合規約を添付のうえ、支部役員変更の通告を行った。この組織が現在の参加人支部であり、参加人支部は、同年六月茨城県地方労働委員会から労働組合法二条及び五条二項の規定に適合する旨の証明を得ている。

(六)  一方、溝口は、同年一月一一日、ネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部委員長名で霞ヶ浦工場長に対し、前記(四)の集会は、同組合霞ヶ浦支部の関知しない無効なものであり、同支部の執行委員長は溝口であって、その他の役員にも何ら変更がないことを通知し、さらに、前記(四)の各通告が同支部の正式文書であるかとの、同工場長からの同年二月一日付け問い合わせに対し、前記(四)のとおり、同組合の正式文書ではないとの回答をした。

(七)  そして、溝口を支部執行委員長とする支部執行委員会は、同年五月に支部役員選挙を実施して支部執行委員長遠藤芳行をはじめとする新役員を選出し、さらに、同支部執行委員会は、同年六月一八日第六回霞ヶ浦支部定期大会を代議員三六名の出席により開催し、運動方針案等を採択するとともに、富田らの行動が規約に反する分派行動であり、組合統制違反であることを再確認し、同人らを組合統制に服させることを決議した。右遠藤は、同月二〇日ネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部執行委員長名で、霞ヶ浦工場長に対し、新役員の就任を通告した。この組織が現在訴外支部を名乗っている。

4  団体交渉の拒否について

〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  参加人支部は、霞ヶ浦工場長に対し、昭和五八年三月二九日、浅見一男の配転(翌三〇日に他二名の配転に関する件を追加)、課長による不当労働行為発言及び係長らによる組合活動への干渉、介入に関する件を議題として同年四月一日に団体交渉を開催するよう書面で申し入れ、その後も、同月四日及び一三日にそれぞれ、書面で団体交渉を申し入れた。

(二)  霞ヶ浦工場長は、右各申入れに応ぜず、同年四月一五日、同月一三日付け団交申入れの書面につき、「会社はこの文書についてネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部執行委員長溝口栄蔵に照会したところ、貴名は『ネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部の役員ではない』との返事がありましたので、会社は貴君の文書を受領しなければならない理由も又その義務もありませんのでここに返戻致します」との返戻書とともに、右団体交渉申入れ書面を参加人支部に返送する措置をとった。

(三)  参加人支部は、同年四月二〇日及び二八日付けで書面で霞ヶ浦工場長に対し、団体交渉拒否に抗議するとともに、速やかに団体交渉に応ずるよう申し入れたが、同工場長は、右申入れに応ぜず、(二)と同様、右書面を返送する措置をとった。そこで、参加人組合及び参加人支部は、同年六月九日同工場長に対し、原告においてネッスル日本労働組合を称する二つの労働組合が併存し、霞ヶ浦工場においても、それぞれの支部が併存するに至った経緯を述べるとともに右の経緯と団交応諾義務の存否とはまったく無関係であり、これを口実に団交を拒否することは現行法上まったく容認し得ない旨を述べた「反論及び申入書」を提出したが、同工場長は、同書面を返送した。その後も、参加人組合及び参加人支部は、同工場長に対し、同月一六日、二九日及び同年七月五日、それぞれ団体交渉を申し入れたが、同工場長は、これに応じないままである。

5  チェックオフの実施について

〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  従来、霞ヶ浦工場では、原告と旧組合との間で締結されていたチェックオフ協定に基づき、旧支部から毎月五日までに提出される組合費控除対象者リストに従い、同工場に勤務する支部組合員の給与から組合費を控除し、これを旧支部に交付していた。

(二)  斉藤は、昭和五八年一月四日ネッスル日本労働組合本部執行委員長名で、原告に対し、「今般、当組合内において組合規約を無視した特定の集団が自らを正当な組合機関であると称し、事実上の組合分裂を策するものとなっております。そこで、当組合においても本来の組合員たる者の範囲を確定することが困難な状態となっておりますので暫くの間は当組合が自らの力で組合費を徴収することといたしました」と述べ、右チェックオフ協定の破棄と同年一月分以降のチェックオフの中止を求める旨を通告した。

(三)  原告は、同月一〇日ネッスル日本労働組合本部執行委員長三浦宛に、(二)の通告は組合の正式文書(通告)であるのか否か、チェックオフ協定を含む現行労働協約を破棄しチェックオフを中止するのか否かの照会をおこなったところ、三浦は、同組合本部執行委員長名で、原告に対し、右通告は組合の正式文書ではなくチェックオフ協定を破棄するような通告をした事実も意思もないこと、原告が同協定を無視してチェックオフを一方的に中止すれば協定違反、組合への組織介入になる旨の回答及び申入れを行ったため、原告は、同年一月分のチェックオフを実施した。

(四)  斉藤は、同年二月一五日ネッスル日本労働組合本部執行委員長名で、原告に対し、直ちにチェックオフにかかる一月分組合費を各人に払い戻し、二月分以降についてはチェックオフを実施しないよう申し入れた。これに対し、原告は、同月二五日、同組合本部執行委員長斉藤宛に、組合員のチェックオフは労働協約の定めにより実施しているとの回答及び斉藤らは新たに第二組合を結成したのか、もしそうであれば、その者については労働協約は適用されない旨の照会を行った。

(五)  富田は、同年二月二一日、ネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部執行委員長名で、霞ヶ浦工場長に対し、同支部が溝口栄蔵を代表とする組織とは一切関係がないことを付記して、(三)の申入れにかかわらず一月分のチェックオフが行われたことは遺憾であるとしたうえ、チェックオフ済みの一月分組合費の返却と二月分以降のチェックオフの取止めを申し入れた。これに対し、同工場は、同月二五日、同支部委員長富田宛に、チェックオフについてはネッスル日本労働組合霞ヶ浦支部委員長溝口から所定の手続がされ実施していること、もし富田らがネッスル日本労働組合を脱退したのであれば、その旨の通知があれば労働協約の適用を受けないのでチェックオフはしない旨の回答を行った。

(六)  参加人支部は、霞ヶ浦工場に対し、同年五月九日、同年四月分の組合費がチェックオフされ訴外支部に交付されたことに抗議するとともにチェックオフの取止めを申し入れ、さらに同年九月五日、所属組合員名を明示したうえで、右組合員らが三浦を代表とする組合の組合員ではないので直ちにチェックオフを中止すること、同年一月分給与からチェックオフした組合費を右組合員らに返却することを求めた。そして、参加人支部に所属する組合員らは、同月五日から九日にかけて、原告及び霞ヶ浦工場に対し、それぞれ、自分は三浦一昭を代表とする組合の組合員ではないので直ちに給与から組合費の控除をやめること及び一月分給与から控除された組合費を速やかに返却することを求める申入れをした。

(七)  これに対し、原告は、同年九月一六日、ネッスル労働組合三浦一昭から(六)の同月五日付け文書は組合の正式文書でもなければ正式の申入れでもないとの回答があったとして、右文書を富田宛に返送し、同月以降も参加人支部所属の組合員についてもチェックオフを実施し、チェックオフに係る金員を訴外支部に交付している。

三  不当労働行為の成否

1  参加人組合及び参加人支部の労働組合としての存在について

前記二2で認定したところによれば、昭和五七年一一月に開催された第一七回大会の前後ころから旧組合内部において斉藤グループと三浦グループとの対立が顕在化し、双方がそれぞれ独自に本部執行委員長ほかの組合本部役員を擁立し、主導権争いを展開する等別個の活動を推進していたが、斉藤グループは確認書なる書面を提出した組合員のみを所属組合員とすることを決定し、同五八年一月一五日に臨時全国大会を開催して所属組合員を確定し、次いで同年三月二〇日に開催した臨時全国大会において斉藤を執行委員長とする組合本部役員を改めて独自に選出するとともに組合規約を整え、他方、三浦グループは、同月一八日から二四日までの間に本部役員選挙の上位得票者について信任投票を行い、三浦グループを支持する九名を本部役員として信任、選出したのであるから、遅くとも同月二〇日の時点においては、斉藤グループを支持する組織は参加人組合として独立した労働組合となり、三浦グループの組織である訴外組合とは別個に存在するに至ったものというべきである。また、前記二3で認定したところによれば、旧支部においても組合本部内部の右対立を反映し、斉藤グループ支持派と三浦グループ支持派が争い、斉藤グループ支持派は、前記認定のような情況下で同五八年四月一〇日前記確認書を提出した組合員らで第七回支部臨時大会を開催し、富田ら支部役員を選出し、新たに支部規約を制定したのであるから、遅くともこの時点において、参加人支部は、訴外支部とは別個に労働組合として存在するに至ったというべきである。原告は、旧組合と原告との間にユニオン・ショップ協定が締結されているため、原告の雇用する従業員はすべて旧組合の組合員であり、新たな労働組合が成立するためには旧組合規約の定める組合脱退又は除名の手続を経なければならないのに、参加人組合及び参加人支部に所属すると称する組合員らは右手続を行っていないから、参加人組合及び参加人支部が、労働組合として成立する余地はないと主張するが、原告と旧組合との間にユニオン・ショップ協定が締結されていることは新たな労働組合の成立を妨げるものではなく、右に説示したとおり、参加人組合及び参加人支部が訴外組合及び訴外支部と別個独立に、執行部役員を選出し、組合規約を制定し、労働者の団結体としての実態を有するに至った以上、その団結権は保障されるべきであって、その所属組合員が旧組合脱退又は除名の手続を履践したか否かを問わず労働組合としての成立が認められるべきであるから、原告の右主張は失当である。

2  団体交渉の拒否について

参加人組合が遅くとも昭和五八年三月二〇日以降、参加人支部が遅くとも同年四月一〇日以降、訴外組合又は訴外支部とは別個の独立した労働組合又はその支部として存在するに至ったことは右1で説示したとおりである。そして、前記認定によれば、原告は、参加人組合及び訴外組合がいずれも旧組合名を称していたとはいえ、双方から別個に役員の選任、解任等につき通知を受け、また、参加人支部執行委員長富田からは、同年二月一日、霞ヶ浦工場においては自らが代表する組織と三浦グループの溝口を代表とする組織の二つの組織が存在するとの通告を受けていたうえ、同年四月一三日には富田から支部組合規約を添付して支部役員変更の通告を受けたのであるから、同日ころまでには、参加人組合又は参加人支部が訴外組合又は訴外支部とは別個の独立した労働組合として存在することを認識したものと推認することができる。原告は、訴外組合及び訴外支部と参加人組合及び参加人支部が併存するとの認識を持ち得なかった旨主張するが、右主張は採用できない。

したがって、原告が、前記二4で認定したとおり、同日以降参加人支部からの再三にわたる団体交渉の申入れにもかかわらず、参加人組合及び参加人支部の存在を否認して団体交渉を拒否したことは、正当な理由のない団体交渉拒否(労働組合法七条二号)に該当するものというべきである。

3  チェックオフについて

前記認定によれば、原告は、昭和五八年一月以降参加人組合から執行委員長斉藤名で、また同年二月以降は参加人支部からも執行委員長富田名で再三前記チェックオフ協定の破棄とチェックオフの中止を求められ、同年四月には参加人組合及び参加人支部がそれぞれ訴外組合及び訴外支部と別個独立した存在であることを認識した。そして、同年九月には、参加人支部から所属組合員名を明示して同人らについてのチェックオフの中止を求められたうえ、同支部所属組合員各個人から、各人が三浦一昭を代表とする組合の組合員ではないとしてチェックオフの中止を求められていたものである。

ところで、チェックオフは、各組合員と雇用主との関係においては支払委任たる性格を有するものであるから、組合員個人が雇用主に対してチェックオフの中止を申し入れた場合には、当該組合員につき組合からチェックオフを求められたとしても、雇用主は、特段の事情がない限り、右申入れに従いチェックオフを中止しなければならないものと解すべきである。これを本件についてみるに、右のとおり、同年九月以降においては、原告は参加人支部に所属する組合員から旧支部との協定に基づくチェックオフの中止を求められていたのであるから、仮に訴外支部との間で右協定の効力が存続しており、参加人支部の組合員が訴外支部の組合員たる資格を喪失したか否かが不明であったとしても(右協定の効力が消滅し、又は右組合員たる資格がなかったとすれば、チェックオフを中止すべきであったことは、前記事実に照らして明らかである。)、特段の事情が認められない限り、原告が右組合員についてチェックオフを継続することは許されなかったものというべきである。そして、右特段の事情については、その主張立証がなく、かえって前記認定の事実によれば、チェックオフを継続すべきでなかった事情を認めることができる。したがって、原告は、同日以降においては、旧支部とのチェックオフ協定の効力が訴外支部又は参加人支部のいずれとの間に存続していたか、また、参加人支部の組合員が訴外支部の組合員資格を有したかどうかを確認するまでもなく、右組合員の申入れに従い、チェックオフを中止すべきであったものといわざるを得ない。それにもかかわらず、原告は、参加人支部所属の組合員についてチェックオフを継続してチェックオフに係る金員を訴外支部に交付し、その結果右組合員をして別途組合費を徴収され、経済的損失を蒙ることを余儀なくさせたものである。このような措置は、参加人支部所属の組合員に対する不利益取扱い(労働組合法七条一号)に該当するとともに、参加人組合及び参加人支部の存在を否定し、これらに対し経済的打撃を与えてその弱体化を図ろうとするものであるといわざるを得ず、労働組合に対する支配介入(同条三号)にも該当するものというべきである。原告は、チェックオフが不当労働行為に該当するとしても、原告の行為は従業員の給与から訴外組合の組合費を控除したことであるから、その救済としてはチェックオフに係る組合費相当額を当該組合員に支払うことを命ずることで必要かつ十分であって、これを参加人支部に支払うべきであるとした本件命令は救済方法につき著しく裁量権を濫用したものであると主張する。確かに、チェックオフに係る組合費相当額及びこれに対する遅延損害金の請求権を有するのは当該組合員個人であって、参加人支部はその交付を受けるべき私法上の請求権を有しない。しかしながら、救済命令制度は、不当労働行為を排除し、申立人をして不当労働行為がなかったと同じ事実上の状態を回復させることを目的とするものであって、労働委員会は私法上の権利義務関係にとらわれることなく、その裁量により個々の事案に応じた適切な救済措置を定めることができるものと解すべきところ、本件において、労働委員会は、参加人支部に属する組合員の給与からチェックオフした組合費相当額を訴外支部に交付したことが参加人組合及び参加人支部の団結権を侵害する不当労働行為に該当すると判断し、右団結権侵害がなかったと同じ事実上の状態を回復させる手段として、右組合費相当額に年五分の割合による金員を付加して参加人支部へ一括交付することを命じたものである。本件の事実関係のもとで、この救済措置が労働委員会に認められた裁量権を逸脱し、救済措置として相当性を欠くとまではいうことができないから、原告の右主張は失当である。

4  ポストノーティスについて

右1ないし3によれば、本件命令中、原告にポストノーティスを命じた初審命令主文第3項を維持した部分も正当である。

四  結論

以上によれば、本件命令に違法はなく、原告の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 相良朋紀 裁判官 長谷川誠 裁判官 阿部正幸)

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